蘭、与川森林鉄道の機関車

●戦前の機関車
帝室林野局木曽支局三殿出張所の森林鉄道は昭和になってからの開業で当初からガソリン機関車が投入され蒸気機関車は見られない。 1929(昭和4)年度蘭森林鉄道開設時には浅野物産製の機関車が1台投入されたようだが燃料タンク位置などからすると実際に製造したのは米ホイットコム社で浅野物産が輸入代理店として介在したものと見られる。 以後蘭線の延長や1932(昭和7)年度の与川森林鉄道が開設などで国産機が増備され1935(昭和10)年度には以下の4台が在籍した。
なお1934(昭和9)年10月29日に当時建設中だった小坂森林鉄道若栃線敷設工事(試運転用?)のため名古屋支局小坂出張所(岐阜県下呂市)へ4.5t機1台を貸出し運転手1名も派遣している。 貸出し期間は不明だが小坂出張所が発注していた加藤4.5t機3台が11月27日に納品されているので1か月程度だったものと思われる。

(表1)1935(昭和10)年度 蘭、与川森林鉄道の機関車
  購入年度 製造元 自重 購入価格 車輪数 軸距 タンク位置 水平に於ける牽引力 軸径 車輪直径
@1928(昭和3) 浅野物産
(実際はホイットコム?)
4.5t6,000円 4 923.93mm 運転室内右側 1,360.78kg 79.38mm 457.20mm
A 1931(昭和6) 日本車輛 4.5t 2,640円 4 973.14mm 中央 1,360.78kg 90.49mm 457.20mm
B 1932(昭和7) 加藤製作所 4.5t 3,840円 4 973.14mm 中央 1,360.78kg 90.49mm 457.20mm
C 1935(昭和10) 酒井工作所 4.1t 5,650円 4 973.14mm 中央 1,360.78kg 90.49mm 457.20mm
作業軌道及森林鉄道に関する調査の件 昭和十年度末現在与川 及 蘭森林鉄道機関車 及 貨車調(三殿出張所作成 国立公文書館つくば分館所蔵)を元に作成
※小数点以下の端数が多いのは元書類のインチをmm、ポンドをkg換算したため


(表2)1935(昭和10)年度 与川作業軌道の機関車
  型式 自重 1台の価格
D プリモウス型orプリモウス 4t(3.6t?) 7,000円
作業軌道及森林鉄道に関する調査の件 昭和十年度末現在与川作業軌道調書(三殿出張所作成 国立公文書館つくば分館所蔵)、作業軌道及森林鉄道に関する調査の件 昭和十年度現在末現在管内森林鉄道 軌道並作業軌道機関車及貨車等調書 軌道及作業軌道之部(木曽支局作成 国立公文書館つくば分館所蔵)を元に作成

元資料である「作業軌道 及 森林鉄道に関する調査の件(三殿出張所作成 国立公文書館所蔵)」に機関車の番号は書かれていないが「木曽谷の森林鉄道」の機関車一覧と突き合わせ推定してみた。
購入年や自重、価格など少ない情報から推定しただけなのであくまで参考程度です。
(表3)1935(昭和10)年度 蘭、与川森林鉄道機関車番号推定(参考程度)
  番号 備考
@ No.13(旧番No.17) 1956(昭和31)年1月臼田営林署で廃車
A 旧番No.29(新番付番前に廃車) 廃車時期不明
B No.26(旧番No.33) 1965(昭和40)年6月藪原営林署(藪原森林鉄道)で廃車
C No.35(旧番No.43) 1963(昭和38)年三殿営林署で廃車 (生え抜き!?)
D No.11(旧番No.14) 1928(昭和3)年7月購入の米フェート・ルート・ヒース(FLH)社製4.5t機?但し3.6tと言う記述もあり

なお他の記述で作業軌道用機関車5台(ホイットコム2.7t×2台、プリモウス3.6t×2台、プリモウス型3.6t×1台…内1台はDと重複か?)があり、4台は岩倉作業軌道(柿其森林鉄道と接続)か蘭作業軌道所属と見られる。
これらの機関車は署内に互いに融通していたものと思われ、下山沢の作業軌道でホイットコムが背中合わせ重連で運材貨車を牽いている写真も見られた。

A日本車輌製4.5t機関車。1931(昭和6)〜1932(昭和7)年に同タイプが数両製造されており、木曽には3、4台が入線している様子で妻籠出張所田立森林軌道にも同タイプ機がいた。 大手鉄道車両メーカーが製造する森林鉄道用内燃機関車は珍しいが世界恐慌による受注減から産業用機関車の分野にも参入していたようだ。 ガソリン代燃併用で白土式代燃装置を搭載。向かって右に代燃炉、左に冷却器が取り付けられている。 戦中戦後の燃料入手難の時代には代燃装置搭載の自動車が各地で見られたが森林鉄道では燃料が自前で確保できるという利点から一足早く導入が進んでいた。
林野庁映像アーカイブ木曽御料林木馬、機関車(木曽御料林1937(昭和12年) 製作:帝室林野局)の2:39〜3:16に同型(同一個体かは不明)の機関車が写っている。 撮影地は不明で国鉄線並みの大きな通信電柱(ハエタタキ)や比較的大きめの川が写っているがもしや与川か下山沢?
実際の塗色は分かっていないがイラストでは帝室林野時代イメージの黒灰色とした。
代燃装置を搭載しないタイプもあり野尻署No.19(旧番24)は代燃無しだった様子。
C初期のNo.35(旧番No.43の時代)。 1935(昭和10)年度購入の酒井工作所製4.1tガソリン機関車で鋳物台枠に片仮名で「サカヰ」と鋳込まれているのが特徴的。 エンジンはブダBTUを搭載しており後にディーゼル化で三菱重工業製セントラルKE-5に換装。 以下写真のNo.33(旧番No.45)とは同型機。 No.33は1959(昭和34)年6月王滝営林署で廃車後も王滝木材に払い下げられて使用され現在は岐阜県下呂市小坂町ひめしゃがの湯で静態保存されている。


No.35(旧番No.43)と同年度購入の上松運輸営林署No.33(旧番No.45)。
どちらも酒井工作所製1935(昭和10)年度購入の4.1t機でディーゼルエンジンに換装されボンネットが嵩上げされていることも共通している。 王滝木材に払い下げられ同社廃業後も王滝森林鉄道田島停車場構内に置かれていた。 2017(平成29)年12月現在は岐阜県下呂市小坂の温泉施設「ひめしゃがの湯」駐車場で保存されている。 この塗装は末期の王滝木材時代の塗装を再現したもの。


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