●運材貨車

運材貨車は木製単台車のいわゆる「山トロ」が主力で他の帝室林野系森林鉄道のような連結運材は行っていなかった様子。 長い木材を短い台車1台に積むため前後のオーバーハングが大きい一見アンバランスな状態で下り勾配を利用した乗り下げ運材を行っていた。 ブレーキ手は山トロに積まれた木材後方に乗り手綱でブレーキ梃子を操作していた。
山トロは運材に使われるだけでなくパルプ工場の原料・製品輸送や沿線の民間貨物輸送にも使用され、さらには床板を付けて柵で囲ったり、上屋を付け客車としても使用していた様子が見て取れる。 代燃装置も山トロに載せて機関車次位に連結され、エンジンへ代燃ガスを供給していた。
開業以来山トロが主力だったが末期の1961(昭和36)〜1963(昭和38)年度には木製貨車(山トロと思われる)の在籍がなくなって鉄製貨車のみが在籍していたことになっている。 他署で森林鉄道の廃止が進み余剰となった鉄製貨車が転入したのだろう。 また129両と随分と車両数が多い。新城署管内でも末期は連結運材を行っていたのだろうか?


段戸山本谷軌道竣功明細書等書類一括(国立公文書館つくば分館所蔵)
本谷線の木製貨車の図。 車輪や軸受などは岩崎レール商会より購入、ツガ材で組む台枠を帝室林野側で自作、ブレーキ装置や連結器、締結・補強材などの金属部品は新城のK氏に製作を依頼していた。 この図面はブレーキ装置、金属部品(赤線部分)製作時の見積書に添付されていた説明図。
中央の「ブレーキハンドル」とある個所に棒を差し込んで使用し、てこの原理で強力なブレーキを掛けるというもの。 この図面を見ると車輪の外側に制輪子が付くタイプ。このタイプは製作や手入れが容易な反面、車輪が落石や障害物に衝突した場合ブレーキ装置が真っ先に破損するという弱点がある。
車輪や軸受部は岩崎レール工業製。木製台枠は自家製でブレーキ等の金属部品は新城町(現・新城市)で自動車修理を行っていたK氏に製作依頼。
地元の方からの聞き取りでは林鉄機関車の修理もK氏が行っていたという。

以下は国立公文書館所蔵の旧帝室林野局名古屋支局の資料から見つけた運材貨車用車輪の購入記録。
・1938(昭和13)年度車輪10台分購入
・1938(昭和13)年4月10日田口事務所受入、10月23日払出し
・1939(昭和14)年度車輪15台分購入
・1940(昭和15)年度車輪10台分購入


乗り下げ時のイメージ。ブレーキの手綱を引くと滑車とてこの原理で強められた力がブレーキに伝わる。 機関車運材時も連結状態でブレーキ手が乗り下げ時と同じように乗車して機関車の汽笛合図でブレーキ緩解操作を行っていたのだろう。
イラストでブレーキ手が腰に提げているのは腰ナタ。


林野庁映像アーカイブ帝室林野局製作の映像資料「木曽御料林」(昭和12年)第六篇伐木運材木馬、機関車(外部リンク)の6:55〜7:48辺りで実際の乗り下げ運材が見られるので参考までに。



新城営林署に在籍した運材貨車数(名古屋営林局統計書(名古屋営林局)各年度 より作成)
転出入は車両増減から推測しただけの情報なので参考程度

年度年度初めの車両数備考 ()内は名古屋局車両増減から推測
1954(昭和29)91
1955(昭和30)9122両減(付知、下呂、小坂、荘川、神岡、富山署のいずれかへ転出?)
1956(昭和31)6923両増(中津川、下呂、久々野署のいずれかより転入?)
1957(昭和32)9237両増(小坂、高山、古川署のいずれかより転入?)
1958(昭和33)129
1959(昭和34)12969両減(廃車?)
1960(昭和35)6031両減(付知、神岡署のいずれかへ転出か廃車?)
鉄トロ木トロ
1961(昭和36)29019両増(付知、小坂、神岡署のいずれかから転入?)
1962(昭和37)380
1963(昭和38)38038両減(廃車?)



おまけ・他署の山トロ

運材貨車は機関車やモーターカーと比べて注目されることが少ないが林鉄の本来の主役は実際に木材を運ぶ貨車。 現在残されている運材貨車は鉄製で連結運材用の2車1組で木材を積み込むタイプがほとんどで木製で単車積みのものはあまり多くない。 林鉄関係の技術書でも木製貨車については軽くしか触れていないのでこれらの情報はかなり希少なものとなっている。
岐阜県下呂市小坂のひめしゃがの湯で保存されている小坂森林鉄道の山トロ。 精米所の米輸送など民間貨物輸送用に使われていたと言うが小坂営林署所属の運材貨車を払い下げたものと思われる。 長年放置されていたものだったため木部は復元だが非常に希少な旧・名古屋営林局の林鉄保存車両。
ブレーキ機構は失われているが基本的な構造は田口・田峰で使われていたものと同じで車輪の外側に制輪子が付くタイプ。
細い材が載っているのでパルプ工場へチップ原料の間伐材を運んでいた姿を髣髴とさせる。 因みに小坂林鉄沿いにも団子島と同じように帝室林野局のパルプ工場があった。
鳥取県智頭町旧・山形小学校に保存されている旧・大阪営林局鳥取営林署沖ノ山森林鉄道の山トロ。 こちらも木部は復元でブレーキ装置が一切ないが締結用金具の位置などは新城署のものと共通点が見られる。


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