十勝上川森林鉄道
帯広営林局新得営林署の十勝上川森林鉄道は北海道上川郡新得町屈足の北海道拓殖鉄道屈足駅に隣接した屈足貯木場から十勝川沿いに大雪山系トムラウシ山方面へ75kmもの路線網を延ばしていた。 元は王子製紙の森林鉄道で1950(昭和25)年に国有林となったことで直営生産事業のため既存の路線を延伸している。
当初は王子製紙時代の軌道を道路化する予定だった個所に再度線路を敷設することになったという数奇な路線である。
屈足〜二股が本線でその延長線とも言えるシートカチ支線が続き支線、分線を各谷に分けていた。 なお「シー」とはアイヌ語で本流と言う意味であり、シートカチ支線を本州の林鉄流に言うと十勝本谷支線とでも言ったところだろうか。 道路化から一転して軌道存続となり北海道拓殖鉄道へのフィーダーの役目を果たした林鉄だったが結局は道路化されることになり1965(昭和40)年度で全廃となった。 その結果貨物輸送量が激減した北海道拓殖鉄道も3年後の1968(昭和43)年10月1日に全廃となっている。
路線概略図

D102〜104
その中で主力を務めた10.0tディーゼル機である。
森林鉄道としては珍しい3軸ロッド駆動機。 1955(昭和30)〜1958(昭和33)年に掛けて3両が購入され、1954(昭和29)年購入の酒井工作所製ボギー8tDLのD101の続番でD102〜104と付番された。 それまで主力だった蒸機S171〜173(鴻之舞鉱山の鉱山軌道、通称「鴻紋軌道」から転属の日立製作所製Bタンク機 協三工業でテンダー機軸配置1B2に改造)を置き換えている。
機関車はエアブレーキ付だがエアホースが付いていないことから自車にのみ作用。 運材列車は自動ブレーキ装備の帯広営林局型運材貨車が使われていたものと思われ、10車以上を牽く長い編成の最後尾に客車や緩急車を連結する編成だった。
車体が凸型とL型の違いはあるがキャブやラジエター周りの形状は同じ協三工業で前年に製作された頸城鉄道DC92とよく似ている。
 主要寸法:全長5580mm 全幅2134o 全高2676mm 軸距850mm 動輪径620mm

D102(?)
D103購入(1956(昭和31)年3月)より前に発行された本(※1)に写真が掲載されているのでD102と推定。 前面2枚窓の下には小窓が設けられ連結時など運転手から下方の見通しを良くしている様子。 エンジンは三菱日本重工業(現・三菱重工)製DB5Lを搭載。
キャブ側面は窓、雨樋などの位置が頸城鉄道DC92と酷似しており、キャブ巾も全く同じ2134mm。
下回りまで鮮明に写った写真が無いので現車の図面と同メーカー製の頸城DC92、日本硫黄沼尻鉄道DC121の足回りを参考にイラストを作成。
側面の車番標記がどのようだったかは写真が不鮮明でよくわからない。 林業機械の見本市に出展されたときの写真では側面窓下に国鉄機のような立派なナンバープレートが付いていたが文字の判読は出来なかった。
D103(?)
D104購入(1958(昭和33)年8月)より前に発行された本(※2)に写真が掲載されているのでD103と推定。 エンジンが三菱日本重工業DB7Lに変わっている。定格出力85HP、最高出力130HPでDB5Lとあまり変わらない。
側面はD102と同じだったようだが前面は乗務員扉が追加され左右非対称の顔になった。 ちょうど頸城DC92の窓、扉配置を左右逆にしたようなスタイルである。

D102〜104緒元
番号 製造元 購入年月 機関形式 変速装置 ブレーキ装置
D102 協三工業 1955(昭和30)年3月 新三菱DB-5 機械式 空気、手用
D103 協三工業 1956(昭和31)年3月 新三菱DB-7 機械式 空気、手用
D104 協三工業 1958(昭和33)年8月 新三菱DB-7 機械式 空気、手用
北海道における森林鉄道用ジーゼル機関車について(小熊 米雄)を元に作成


頸城鉄道DC92
十勝上川森林鉄道D102〜D104とスタイルに共通点が多く見られる。 DC92は頸城鉄道の蒸機1号を協三工業で改造して生まれた9tディーゼル機だが実際には車軸を流用したくらいで実質新製機だという。 こちらは1954(昭和29)年11月製造となっており、D102とほぼ同時期に製作が進められていたものと思われる。 ボディ構造がD102〜104はL型なのに対しDC92は凸型機でキャブの幅(2134mm)は全く同じ。 側面の窓や雨樋配置も共通しており、ラジエター周りの構造も同じ形状をしているため雰囲気がよく似ている。

(※1)林業機械化の動向(加藤 誠平 著 日本林業技術協会 1955(昭和30)年6月1日発行)
(※2)北海道における森林鉄道用ジーゼル機関車について(小熊 米雄)、北見営林局事業統計書(北見営林局)


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